読んだ本を仕事・私生活に役立てたいと考えているけど読む時間がないという人をサポートするために、毎月少しずつ本を紹介するLilaboの書籍レビュー。
今回は、ソ連崩壊やイギリスのEU離脱を予測し的中させてきた歴史人口学者のエマニュエル・トッドが自分の思考について書き上げた一冊。
著者にとっての思考は物事間の共通点や関連性を見つけ出すこと。そのために、膨大な知識を普段から集めているという。
2021年現在、ググれば何でも情報は得られるから知識なんて不要だよね、という風潮に一石を投じた70歳。
その頭の中はどうなっているのか。
サマリー
歴史人口学者の著者が書いた今回の本の主題、それは「知識」を集積することである。
その集積した知識が連携しあうからこそアイデア(発見・気づき)が生まれる。そのアイデアをフレームワークにより分析・比較・検証し、新しい洞察や予測をする。
プロセスは入力→思考→出力。
入力とは本を読みデータを集めてモデルを作る。この時間に9割を使う。
思考は、入力したデータを一般化し、データとデータ・現象と現象を結び付け考え検証する。
最後の出力は、書いたり話したりする。
著者にとって思考するとは、発見や気づきを自然発生的に生み出すもので、意識しているものではないという。
ただし、思考するときは、その対象に対して外部者としての視点をもっておくことが必要となる。これは、その対象の内部にいると客観的な視点でものごとを見ることができなくなるためだ。
この視点と統計的ワークフレームを用いることで自然発生的にアイデアが生まれる。
アイデアの創出を妨げる2つの注意点がある。
・自分の中に無意識でランダムな考え方がない。
・グループシンクという、創出したアイデアを持たせないように社会が仕向けてくる風潮。
“思考地図”という今回の本での著者の言いたいことは、研究・テーマの軸を中心に知識を集め、フレームワークを使うことで、新しい洞察を見つけたり未来を予測したりすることが可能になるということだ。
この本の前提として
エマニュエル・トッドは歴史人口学者なので、ビジネスマンの思考の方法とは少し違う考え方をしていると感じます。
本人も自分の考えは少し特殊と周りから言われると言っているので、この本をそのまま活かすことは難しいかもしれません。
入力フェーズ
著者にとって考えるは、机の前でうんうん唸りながら自問自答するものではなく、ひたすら本を読み知識を蓄積していくこと。
ここでの知識は単純に単語を覚えるとかそういうことではなく、統計データや地理的情報など、研究テーマについて様々な情報を集めることを指している。
このように情報やデータを眺めているときにこそ、興味深い発見があるらしい。
で、情報を集めに集めて自分の頭の中に図書館を作り出す。作り出した図書館の中をさまようこともまたアイデア創出に一役かう。
情報を集めているときも脱線が多く、テーマがから派生した単語や情報を集めてくる。
ひたすら情報を集めて知識にしていくが、たまにこの本を読むという作業に意味があるのかと思うこともあるらしい。
思考フェーズ
著者にとって「思考する」ことの本質とは、物事の間の偶然の一致や関係性を見出すこと。本人は、ブレークと呼んでいる。
このブレークは15秒程度でできるらしいが、短時間でアイデアが出てくるのはこれまでの知識のおかげと言っている。
やはりここでも知識の集積が大事だと強調している。
そのブレークを見つけるために本人は統計フレームワークを使っている。
統計といっても専門的ではなくパーセンテージや相関係数、回帰式などと比較的簡単なものを使用。
この統計分析の方法は大学時代に学んだものらしい。仮設から物事に新しく定義付けをして相関係数を出すというもの。本文にも定義の例とその結果などが書かれているけど、自分は専門家でもないので詳細は置いておく。
なお、アイデア創出を妨げる原因に注意すること
・自分の中に無意識でランダムな考え方ない
1. データを把握する能力が欠けている。orデータの集積が不足している。
2. データの意味や背景にあるものを理解する能力が不十分。
3. インプットしたデータが無意識下で混ざり合うほどに定着していない。
4. データとデータ、現象と現象とを結びつけて考える試行錯誤をしていない
・社会がそのアイデアを持たせないようにしている。
これは、グループシンクと言われる集団思考で、同じ考えを持つ者は許容できるが、そうでない者は許さないという考え方。
出力フェーズ
知識を集めることがメインなので、自分の考えを出力する「話す」「書く」ということについては、サラッとしか書かれていない。
「仕事だから書いている」というスタンス。
著者プロフィール
フランス生まれ。ケンブリッジ大学歴史学博士。歴史人口学者。
邦訳(リンクはamazonです)
:『帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕』、『世界の多様性 家族構造と近代性』、『最後の転落 〔ソ連崩壊のシナリオ〕』(以上、藤原書店)
『シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)」』
読んだ感想と活用方法
哲学系の新書などで最近よく目にするエマニュエル・トッド。
頭の中はどうなっているのかと、それを参考にできないかと思い購入した。
本を読んでいると、トッドは経験主義者で権威・インテリがお嫌いな模様。
日本オリジナルらしいので気負うことなく書いており、本文でもたびたびマクロンフランス大統領の悪口を言っているし、大学の偉いさんたちとも対立していると書いている。
本人は自分をフランス国内にいるアウトサイダーと呼んでいるので、その立ち位置がきらいなわけではなさそう。
本人は大学に籍を置く歴史学者で、基本は本を読み歴史を学び新しい発見をするのがお仕事。
なので、この本をそのままビジネスに応用できるかというとなかなか難しい印象だった。
たとえばPDCAの本が世の中に多く出回っているが、課題や仮説を立て行動し検証するという流れとトッドの方法は違う。
また、仕事にもよると思うけど、就業時間の9割を情報収集に充てていたら、おそらく上司から怒られるでしょう。
ひとまず、ざっくりとトッドの頭のプロセスを書き出すとこんな感じか。
①データ収集→②気づき→③仮説→④モデル構築→⑤検証
①は、仕事の知識や情報に加えて状況を把握するというのがビジネスマンには大事ではないか。状況把握ができてなくて仮説を立てて行動した結果、進撃の巨人みたいに「結果何も得られませんでした」と報告したらステークホルダーに怒られるでしょう。
仕事の分野のいろいろな知識をかき集め情報同士が連結しだしたら、火花のように思考がはじけだす。
ググるより読め!
②の気づきについては、著者は統計フレームワークを使用しているが、使用するフレームワークは個人が考えるのに適したものを探すしかない。
フレームワークにはMECEやツリー構造などがあるけど、それ以上に「なぜこうなっているのか?」「どういう意図でやっているのか?」といった疑問が自分の頭に浮かぶかが大事と思っている。
最後に今回の“思考地図”で一番唸ったところを紹介して終わりにします。
「正しかろうが間違っていようが人から向けられる怒りや批判に向き合う勇気も必要です。なにごとも最終的には決断を下さないと物事は動かない。
決断の恐れというのは他人の反応などに対する恐れではなく、むしろ自分の中にあるものだと思います。自分が決断することへの恐れです。」p66
全然本の思考とは関係ない部分やけど、ここ最近のモヤモヤに対する意見をくれたと感じた。
なにごとも決断し行動しないと、人生は前に進まない。結果がどうなって、批判を浴びてもそれは一つの成長につながるはず。
動こう。
過去に読んだ本のまとめ